第89回 2024年4月7日(日)『弦楽器のエポック』
バークレイズ証券株式会社 特別協賛
東京交響楽団&サントリーホール
「こども定期演奏会」
音楽は時代に乗って
第89回 「弦楽器のエポック」
2024年4月7日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール
「こども定期演奏会 2024」テーマ曲(山本菜摘 編曲):
小橋愛菜:『とびはねるシマエナガ』
Aina Kobashi (arr. Natsumi Yamamoto): Theme Music of “Subscription Concert for Children”
吉松 隆:『アトム・ハーツ・クラブ組曲』第1番 作品70b より 第1楽章
Takashi Yoshimatsu: Atom Hearts Club Suite No. 1, Op. 70b
I. Allegro
ドリーブ:バレエ音楽『シルヴィア』より「ピッツィカート」
Léo Delibes: “Pizzicati” from Sylvia
ワックスマン:『カルメン幻想曲』*
Franz Waxman: Carmen Fantasie *
サン゠サーンス:組曲『動物の謝肉祭』より 第13曲「白鳥」
Camille Saint-Saëns: No. 13 “Le Cygne” from Le carnaval des animaux Suite
チェロ独奏:笹沼 樹(東京交響楽団客演首席奏者)
Tatsuki Sasanuma, Cello Solo
ジョン・ウィリアムズ:映画『ジョーズ』より「ジョーズのテーマ」
John Williams: “Theme” from Jaws
ウォルトン:戴冠式行進曲『王冠』
William Walton: Crown Imperial
指揮:角田鋼亮
Kosuke Tsunoda, Conductor
ヴァイオリン:成田達輝 *
Tatsuki Narita, Violin
東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra
司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC (Announcer of TV Asahi)
プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2024」テーマ曲
小橋愛菜:『とびはねるシマエナガ』
小橋愛菜さん(小学5年生)からのコメント
真っ白なかわいいシマエナガが少しずつ成長していく姿を思いうかべて、この『とびはねるシマエナガ』を作曲しました。
最初は2匹のシマエナガが枝の上で楽しく遊びながら飛び跳ねているところから始まります。次は、羽ばたこうとしているけれどきちんと飛べずに、よちよちしている感じを表しました。最後は、ほかのシマエナガも集まって来て、みんなで一生懸命羽ばたいて、遠くに向かおうとしている様子を表現しました。
シマエナガのかわいい姿を想像して楽しい気持ちになってもらえたらうれしいです。
飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
2024年のこども定期演奏会は「音楽は時代に乗って」がテーマです。クラシック音楽にはおよそ400年にもわたる長い歴史があります。いつの時代も音楽には、人々の思いや、生き方や、暮らしぶりなどが映し出されています。また音楽家たちはいつでも、「新しい音楽」を生み出そうと工夫をしてきました。4回のコンサートにはそれぞれ「〇〇のエポック」というタイトルがあります。「エポック」とは、「一つの時代」とか「新しい時代」を意味する言葉です。今日は「弦楽器のエポック」です。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロやコントラバスといった弦楽器は、オーケストラでもっとも数の多い楽器です。どんなふうに弦楽器が活躍するのか、注目しながら聴いてくださいね。
吉松 隆:
『アトム・ハーツ・クラブ組曲』第1番 作品70b より 第1楽章
最初は弦楽器のみのオーケストラで演奏される曲です。イギリスで誕生し大人気となったロック・バンドに「ビートルズ」「エマーソン・レイク・アンド・パーマー」「ピンク・フロイド」という有名なグループがあります。日本の作曲家、吉松隆(1953~ )は、そうしたグループが1960年代の終わりから1970年代の初めにかけて発表し、世界中の人たちの心をつかんだ曲に影響を受け、4人の弦楽器奏者で演奏される『アトム・ハーツ・クラブ・カルテット』(カルテットとは弦楽四重奏のことです)を1997年に作曲しました。それをもとにして、1999年に弦楽オーケストラ用に作ったのが『アトム・ハーツ・クラブ組曲』第1番です。第1楽章はロックとクラシックがかっこよく合わさった、エネルギッシュな音楽です。
ドリーブ:
バレエ音楽『シルヴィア』より「ピッツィカート」
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスといった弦楽器は、弓で弦をこすって演奏するのがふつうですが、指でじかに弦をはじく演奏方法もあります。それを「ピッツィカート」といいます。オーケストラ音楽の中で、わりとよく使われる奏法です。フランスのバレエ音楽の作曲家レオ・ドリーブ(1836~91)による『シルヴィア』では、バレエの第3幕に「シルヴィアのピッツィカート」と呼ばれる曲が登場します。可愛らしい音色のピッツィカートの響きに耳を澄ませてください。
ワックスマン:
『カルメン幻想曲』
世界中で上演され続けている人気オペラ『カルメン』。作曲者はフランスの作曲家ジョルジュ・ビゼー(1838~75)です。スペインを舞台にしたこの物語には、「ハバネラ」や「闘牛士の歌」など、情熱的で印象深いメロディーやリズムがたくさん登場します。のちに、べつの音楽家たちが『カルメン』の中の音楽を使って、いろいろな楽器のためにアレンジした『カルメン幻想曲』がいくつも誕生しました。そのひとつが、アメリカの映画音楽の世界で活躍したフランツ・ワックスマン(1906~67)によるヴァイオリンとオーケストラのための『カルメン幻想曲』です。1946年の映画『ユモレスク』のために書かれたこの曲は、アカデミー賞作曲賞にノミネートされました。20世紀の大ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツのリクエストにこたえて、ワックスマンはこの曲を演奏会用に仕上げました。ヴァイオリン独奏は華やかで、とても難しいパッセージを奏でます。
サン゠サーンス:
組曲『動物の謝肉祭』より 第13曲「白鳥」
たおやかな白鳥がゆったりと水面を泳ぐ姿を思わせるこの音楽は、フランスの作曲家カミーユ・サン゠サーンス(1835~1921)が作曲した組曲『動物の謝肉祭』の中の1曲です。全部で14曲からなるこの組曲には、「亀」や「象」や「カンガルー」など、たくさんの動物たちが登場します。13曲目の「白鳥」ではチェロが独奏をつとめ、美しいメロディーを歌うように奏でます。組曲の中でもっともよく知られた曲です。もともとこの組曲は、サン゠サーンスが友人のチェロ奏者に頼まれて、親しい人たちだけが集う音楽会のために作曲しました。今では組曲の全曲がコンサートでも演奏され、楽譜も出版されていますが、当時のサン゠サーンスはそれを認めていませんでした。しかしこの「白鳥」だけは出版を許したそうです。きっとサン゠サーンス自身も多くの人に演奏され、聴かれてほしいと願った曲なのでしょう。
ジョン・ウィリアムズ:
映画『ジョーズ』より「ジョーズのテーマ」
作曲者のジョン・ウィリアムズ(1932~ )は、『ハリー・ポッター』『スター・ウォーズ』『インディ・ジョーンズ』シリーズなど、数々のSF(サイエンス・フィクション)や冒険もののハリウッド映画の音楽を手掛けています。映画『ジョーズ』は、1975年に公開された作品です。平和な海辺で海水浴を楽しむ人々を、巨大な人喰いザメが突然襲い、町は大混乱におちいります。サメの恐怖と、それに立ち向かおうとする人々のドラマを描いたこの映画で、監督スピルバーグの名は広く知られることとなりました。ジョン・ウィリアムズは、サメが深海から現れる恐ろしさを音楽で見事に表現し、アカデミー賞作曲賞を受賞しました。チェロやコントラバスやファゴットといった低い音域の楽器で奏でられる不気味な音型は、一度聴いたら忘れられないインパクトを持っています。
ウォルトン:
戴冠式行進曲『王冠』
イギリスの首都ロンドンには、ウェストミンスター寺院という、とても立派な教会があります。なんと11世紀もの昔に建てられたもので、ユネスコの世界遺産にもなっています。この教会では、代々のイギリスの王様が王家に伝わる冠を初めてかぶり、人々に「これからは私が国王です」と知らせる儀式(これを戴冠式といいます)が行われてきました。20世紀イギリスの作曲家ウィリアム・ウォルトン(1902~83)によって作曲された戴冠式行進曲『王冠』は、1937年に国王ジョージ6世の戴冠式で演奏された作品です。勇ましく、そしてどこか上品なこのオーケストラ曲は、その後1953年のエリザベス2世、2011年のウィリアム王子の結婚式、そして2023年のチャールズ3世の戴冠式でも鳴り響きました。
コラム
ヴァイオリンのエポック
クラシック音楽で使われる楽器たちは、何十年、何百年もの長い歴史のあるものばかりです。中でもヴァイオリンは、すでに16世紀の半ばころには今とほとんど変わらない形の楽器に完成していたそうです。ヴァイオリンははじめにイタリアで作られ、徐々にドイツやフランスなどヨーロッパ中に広がっていきました。ヴァイオリンの弦は、もともとは羊の腸を細くよじったものを使っていましたが、やがてスチールやナイロンなどの丈夫な素材が使われるようになりました。19世紀になると、広いコンサート会場が作られるようになり、ヴァイオリンはより強くハリのある音が出せるようにと、少しずつ手が加えられていきました。たとえば、ヴァイオリニストが左手で弦を押さえる黒い部分(指板といいます)が長くなったり、素早いパッセージや難しい音型を弾く時にも楽器が安定するように、あご当てなども取り付けられていったのです。
楽器そのものが変化していくのに加えて、演奏家や作曲家たちも、楽器の新しい演奏方法にチャレンジして、ユニークな音色を出そうとしてきました。新しい演奏方法のことを「特殊奏法」と呼びます。今日の曲目にも「ピッツィカート」という弦を指ではじく奏法が登場しましたね。それも特殊奏法の一つです。ほかにも、弦を弓の毛の部分でこするのではなく(毛は馬の尻尾です)、木の部分でこすったり軽くたたいたりして音を出す「コル・レーニョ」や、左手で弦をしっかり押さえるのではなく軽く触れることで、高い音がフンワリと浮き立つように鳴る「フラジョレット」といった特殊奏法もあります。演奏を聴きながら、ちょっと変わった音だな?と感じたら特殊奏法が使われているかもしれません。楽器演奏の様子をじっと見られるのも、コンサートの楽しみの一つですね。
(文 飯田有抄)