プログラムノート

第85回 2023年4月9日(日)『青』

バークレイズ証券株式会社 特別協賛
東京交響楽団&サントリーホール

2023年4月9日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール

「こども定期演奏会 2023」テーマ曲(上田素生 編曲):
石川真子:『音楽の色いろ』
Mako Ishikawa (arr. Motoki Ueda): Theme Music of “Subscription Concert for Children”

ガーシュウィン:『ラプソディー・イン・ブルー』*
George Gershwin: Rhapsody in Blue*

メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調 作品90「イタリア」より 第1楽章
Felix Mendelssohn: Symphony No. 4 in A Major, Op. 90, “Italian”
I. Allegro vivace

チャイコフスキー(グラズノフ 編曲):『懐かしい土地の思い出』作品42 より 第3曲「メロディー」
Pyotr Ilyich Tchaikovsky (arr. Aleksandr Konstantinovich Glazunov):
No. 3 “Melody” from Memory of a Dear Place, Op. 42
ヴァイオリン独奏:小林壱成(東京交響楽団コンサートマスター)
Issey Kobayashi, Violin Solo

冨田 勲:『勝海舟』(1974年NHK大河ドラマ テーマ曲)
Isao Tomita: Katsu Kaishu

ドビュッシー:交響詩『海』~3つの交響的スケッチ~ より 第3楽章「風と海との対話」
Claude Debussy: La mer―Trois esquisses symphoniques
III. Dialogue du vent et de la mer

指揮:沼尻竜典
Ryusuke Numajiri, Conductor

ピアノ:亀井聖矢 *
Masaya Kamei, Piano

東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra

司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC

プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2023」テーマ曲
石川真子:『音楽の色いろ』


石川真子さん(小学6年生)からのコメント

 この曲は、おいしいスイーツを食べた時に浮かんだフレーズを用いて作りました。ケーキの「スポンジがステージ」で、その上にのっている「フルーツたちがオーケストラ」のイメージです。様々な色のフルーツたちが音楽を奏でています!
 今年のテーマ「音楽の色いろ」のように、音楽の色々な記号や形、ハーモニーの色を最大限生かせるよう、意識しました。半音階やスケール、トリルやターンなどを取り入れ、和音の移り変わりも感じて作りました。「con grazia(優雅に、優美に)」ですが、どこか楽しい雰囲気もあるような、素敵な音楽の世界を表現してみました。
 曲の中に、たくさんの色が散りばめられているので、ぜひ皆さんに、どんな色なのか想像しながら聴いてほしいです!

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

 こども定期演奏会へようこそ! 今年のテーマは「音楽の色いろ」です。オーケストラはたくさんの楽器から成り、カラフルな音色を響かせます。毎回テーマカラーにちなんだステキなオーケストラ音楽が登場しますので楽しんでくださいね。今日のテーマは「青」です。

ガーシュウィン:
『ラプソディー・イン・ブルー』

 「青」は英語で「ブルー Blue」です。みなさんはどこかで「ブルーな気分」という言葉を聞いたことがありますか? 青い気分、ってどんな気分でしょうね。実は、ちょっぴり元気がなくて、憂うつな気分を表すときに、この言い方が使われるようです。
 ところで、アメリカで誕生したブルースやジャズというジャンルの音楽には、「ブルー・ノート」と呼ばれる音があります。まさに「ブルーな気分」を思わせる哀愁のある響きや、メランコリックな雰囲気を感じさせる音なのです(ドレミファソラシドという音階で説明すると、ミとソとシの音を半音ほど下げた音が「ブルー・ノート」となります)。
 そんなブルー・ノートを用いて、クラシック音楽とジャズとを見事に掛け合わせた人気曲が、この『ラプソディー・イン・ブルー』という作品です。ブルー・ノートは登場しますが、元気いっぱいのかっこいい音楽です。作曲者は、アメリカでポピュラー・ソングやミュージカルで成功をおさめたジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)。ガーシュウィンは、ピアノとオーケストラのためのこの作品で、クラシック音楽のジャンルでも名前を残すこととなりました。なお、「ラプソディー」とは、自由な形式で作られた音楽のことで、日本語では「狂詩曲」と訳されます。

メンデルスゾーン:
交響曲第4番 イ長調 作品90「イタリア」より 第1楽章

 英語のブルーには「憂うつ」を表す意味があることをお話ししましたが、一方で、青と言えば青空のように、心がスカッと晴れやかに広がるイメージもありますね。青空が美しい国として知られるのが、ヨーロッパのイタリアです。
 作曲者のフェリックス・メンデルスゾーン(1809~47)は北ドイツのハンブルクという街で生まれましたが、20代のはじめに、イギリスやオーストリアやイタリアをめぐる演奏旅行に出かけました。南ヨーロッパの国イタリアは、ふるさとの北ドイツに比べると、とても暖かく、突き抜けるような青空をメンデルスゾーンは眩しく感じたのでしょう。インスピレーションを受けたメンデルスゾーンは、旅行中にこの交響曲を書き始めました。3年がかりで書き上げ、完成したのは1833年でした。全部で4つの楽章で成り立っていますが、今日演奏される第1楽章は、ウキウキと心はずむメロディーが、さっそうと進むテンポに乗って展開していきます。

チャイコフスキー(グラズノフ 編曲):
『懐かしい土地の思い出』作品42 より 第3曲「メロディー」

 続いてはロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93)によるロマンティックな作品です。もともとチャイコフスキーがヴァイオリンとピアノのために作曲した曲ですが、のちに、チャイコフスキーよりも一世代若い作曲家アレクサンドル・コンスタンティノヴィチ・グラズノフ(1865~1936)がオーケストラ用にアレンジしました。今日は、そのバージョンで聴いてもらいます。
 チャイコフスキーには、彼の音楽を心から愛するメック夫人というパトロン(音楽家の活動や暮らしを応援し支えてくれる人)がいました。メック夫人は現在のウクライナのブライリフというところに別荘を持っていて、チャイコフスキーにその別荘を貸し出しました。そのお礼にと、チャイコフスキーはこの作品を夫人に書き送りました。タイトルにある「懐かしい土地」がどこを指しているのか、はっきりしたことはわかっていませんが、おそらくはそのウクライナの別荘地ではないかと言われています。
 作品は3つの曲でできていますが、今日は歌心にあふれた第3曲「メロディー」を聴いてもらいます。

冨田 勲:
『勝海舟』(1974年NHK大河ドラマ テーマ曲)

 冨田勲(1932~2016)はラジオやテレビの番組、映画やアニメーションのために、音楽をたくさん書き残した日本の作曲家です。とくに、シンセサイザーという電子楽器を使った音楽作りにいち早く取り組んだことでも知られています。1970年代にはドビュッシーの『月の光』やムソルグスキーの『展覧会の絵』といったクラシック音楽の名作をシンセサイザーで演奏したレコードが、外国でも大きな評判となりました。
 ちょうどその頃、冨田さんはNHKの大河ドラマのテーマ音楽も手がけました。それが1974年の『勝海舟』です。江戸時代の終わりから明治にかけて活躍した政治家・勝海舟の人生を描いたドラマです。冨田さんはオーケストラのための勇ましい音楽を作曲しました。オープニングではその雄大な音楽に乗って、37歳の勝海舟が咸臨丸という船で渡った太平洋の大海原が迫力ある映像で映し出されました。

ドビュッシー:
交響詩『海』~3つの交響的スケッチ~ より 第3楽章「風と海との対話」

 青々とした海と言えば、風に波立つ広大な海の姿をオーケストラで見事に描いた作曲家がいます。冨田さんのシンセサイザーのお話でも触れたフランス人の作曲家、クロード・ドビュッシー(1862~1918)です。ドビュッシーは「もしも作曲家になっていなかったら、船乗りになっていただろう」という言葉を残すほど、海に憧れを抱いていました。そして1903年から05年にかけて、オーケストラのための作品『海』を作曲しました。
 この曲は3つの楽章でできています。第1楽章では、日の出前の薄暗い海の景色から、太陽が光り輝く正午までを描き、第2楽章では、海面が遊ぶように波立つ情景が表現されます。そして今日聴いていただく第3楽章はそのタイトルにもあるとおり、風と海とがお話をしているような音楽です。
 冒頭はティンパニと大太鼓、そしてチェロとコントラバスの低音が遠くの嵐のような響きを聴かせます。やがて木管楽器によって風が流れるように滑らかなメロディーが登場し、弦楽器はさざ波のようなリズムを響かせます。風と波との対話は次第に盛りあがり、大きな波がつぎつぎと湧き立つようなクライマックスを迎えます。みんなでいっせいに奏でるオーケストラの姿は、波立つ海のように見えてくるかもしれません。

コラム
音楽と色
その1 「音色」ってなんだろう?

 みなさんは「音色」という言葉を見たり聞いたりしたことはありますか? 「音色」は、「ねいろ」とも「おんしょく」とも読みます。音や音楽は、実際には目で見ることができませんよね。ですが、「美しい音色」とか「心地よい音色」とか、目で見ることのできる「色」と結びつけた「音色」という言葉がよく使われます。よく考えてみたら、「音色」って不思議な言葉ですね。
 音色に似た言葉で、「声色」というのもあります。「こわいろ」と読みます。「彼は声色を変えて秘密を打ち明けた」などのように使われます。声も音ですから、やっぱり目には見えません。でも、たとえば、みなさんがお友達と「おはよう」という挨拶をかわす時、友達の「おはよう」の言い方が、あれ、ちょっといつもと違うな、と感じたりすることはありませんか? 元気な「おはよう!」の時もあれば、寝ぼけているような「おはよう」や、しょんぼりした「おはよう…」もあります。声の調子によって、友達の気分や体調の違いが伝わります。同じ言葉、同じ人の声でも、いろいろな表情が感じられるのです。そんな声の様子の違いについて、「声色」という言葉が使われます。
 音楽で使われる「音色」にも、同じような意味があると思います。たとえば、同じピアノで「ド」の音を弾いたとしても、勢いよく鍵盤を打った時と、そっとなでるように触った時とでは、「ド」の響き方がぜんぜん違いますね。あるいは、同じ音の高さの「ド」でも、ヴァイオリンで弾いて出した音と、トランペットを吹いて出した音とでは、楽器の姿形がまったく違うのと同様に、音もかなり違いますね。それぞれの音の表情を「音色」という言葉で伝えることがあるのです。つまり、「色」には「表情」という意味が込められているんですね。
 オーケストラ音楽では明るい音色、暗い音色、陰った音色、眩しい音色、燃えるような音色、澄み切った音色……いろいろな音色が、いろいろな楽器で示されます。今年のこども定期演奏会で、カラフルな音の世界を冒険しましょう!

(文 飯田有抄)