第84回 2022年12月11日(日)『冬のあそび』
バークレイズ証券株式会社 特別協賛
東京交響楽団&サントリーホール
2022年12月11日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール
バークレイズ証券株式会社 代表取締役社長 木曽健太郎 ご挨拶
「こども定期演奏会 2022」テーマ曲(小田実結子 編曲):
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』
Ryuto Yasuda / Teppei Asou (arr. Miyuko Oda):
Theme Music of “Subscription Concert for Children”
チャイコフスキー:オペラ『エフゲニー・オネーギン』作品24 より ポロネーズ
Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Polonaise from Eugene Onegin, Op. 24
ワルトトイフェル:『スケーターズ・ワルツ』作品183
Emile Waldteufel: Les patineurs, Op. 183
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集『四季』作品8
第4番 ヘ短調 RV 297「冬」より 第2楽章
Antonio Vivaldi: No. 4 in F Minor, RV 297, “L’inverno” from Le Quattro Stagioni, Op. 8
II. Largo
プロコフィエフ:組曲『キージェ中尉』作品60 より 第4曲「トロイカ」
Serge Prokofiev: No. 4 “Troika” from Lieutenant Kijé Suite, Op. 60
「新曲チャレンジ・プロジェクト」(こどものモチーフによる若手作曲家作品)
上田素生:『雪だ!』
Motoki Ueda: Snowing!
チャイコフスキー:バレエ組曲『くるみ割り人形』作品71a より
第8曲「花のワルツ」*
Pyotr Ilyich Tchaikovsky: No. 8 “Waltz of the Flowers” from The Nutcracker Suite, Op. 71a
こども奏者*
第1ヴァイオリン:
ベバン慧奈モーリーン(小学2年生)、遠藤 華(小学3年生)、
西野沙良(小学5年生)、江原竜太朗(小学6年生)、
福地りべか(小学6年生)、平山祐歌(中学1年生)、伊藤理子(中学2年生)、
加藤優音(中学3年生)、楠元蓮生(中学3年生)
第2ヴァイオリン:
鈴木 繫(小学2年生)、江原望花子(小学3年生)、斎藤靖史(小学4年生)、
楠元まお(小学6年生)、蛯谷 将(小学6年生)、石井かのん(中学2年生)、
グルート シャノン 愛真(中学2年生)、後藤 葵(中学3年生)
チェロ:
野口夏央(中学1年生)、藤田文護(中学2年生)
フルート:
小俣美咲(小学4年生)
トランペット:
金井信之介(小学6年生)
指揮:原田慶太楼
Keitaro Harada, Conductor
東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra
司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC
新曲チャレンジ・プロジェクト
「こども定期演奏会」では、20周年を迎えた2021年から、子どもたちと音楽家を結ぶ新企画として、子どもの書いた短いメロディーを使った新曲を、若手作曲家から募集しています。22年の新曲のテーマは「冬」。力作が揃った中、原田慶太楼マエストロらによる審査の結果、上田素生さんの『雪だ!』が選ばれました。この曲では、子どもたちのメロディー6作全部が、いたるところにちりばめられています。上田さんのプログラム・ノートを参考に、どこにどのメロディーが使われているのか、ぜひ探してみてください!
プログラム・ノート
上田素生
皆さん初めまして! 作曲家の上田素生です。
新曲チャレンジ・プロジェクトの今年のテーマは「冬」! 僕が冬と聞いて浮かぶものは何と言っても雪です。雪が降って来たのに気づいたとき、思わず「雪だ!」と言ってしまいませんか? その言葉には冬の良いところが詰めこまれていると思います。雪を見た時の高ぶる気持ち、雪が降るほどの寒さ、ひんやりとやわらかい触り心地や、雪がつもる風景……。
選ばれた6つのメロディは全て、冬のイメージがはっきりと浮かぶすてきなメロディでした。そこに僕が思う雪のイメージを重ねて、この曲を作曲しました。この曲で一番楽しんでいただけるのはもちろん、順番に現れる6つのメロディの美しさかと思いますが、この曲の楽しみ方は他にもあります。
この曲はベートーヴェンの作曲法をヒントにしています。6つのメロディはそのままの形で一つずつ順番に現れますが、それだけではなく伴奏や対旋律(裏メロディ)まで、その6つのメロディのパーツを使って組み立てています。6つのメロディたちが形を変えて、他のいろんな場所にも顔を出しているということです。それを発見するのがこの曲のもう一つの楽しみ方となっています。たくさん発見していただけるととても嬉しいです!
すてきなメロディを作曲してくださった6人の作曲家の皆さん、東京交響楽団の皆様とサントリーホールの皆様、何よりプロジェクト発案者である指揮者の原田さんに心から感謝いたします。
プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2022」テーマ曲
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』
安田龍人さん(中学2年生)からのコメント僕は日々様々な曲を作っています。それらをいつか多くの人に聴いてもらいたい、という事をこの「王国の繁栄」という題名に込めました。昔から、言葉にできない気持ちを音楽で表現してきました。自分の心情を人へ音で伝えることができたら、他の曲に込められた想いも理解する事ができるのだと思います。是非聴いてください!
麻生哲平さん(小学6年生)からのコメント
友達と遊ぶのが好きなので「ともだち」という題名にしました。最初の明るい部分は友達と仲良く遊んでいるイメージです。短調の部分はケンカやもめごとになる時をイメージしました。最後は仲直りして楽しく遊び、自分も友達もいい気分になって明るくなります。この曲を聴いて楽しい気分になってもらえたらいいなと思いました。
飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
今年のこども定期演奏会は、オーケストラで聴く「春夏秋冬」がテーマです。今日は「冬のあそび」と題して、寒さを吹き飛ばしてくれるようなステキな音楽をお届けします。チャイコフスキー:
オペラ『エフゲニー・オネーギン』作品24 より ポロネーズ
「ポロネーズ」とは、舞曲(踊りの音楽)の一種です。ヨーロッパの中央にあるポーランドという国の人々の間で踊られていた音楽が、お金持ちの貴族や王様のお城でも踊られるようになったものです。やがてクラシックの音楽家たちも、自分の作品の中にポロネーズの堂々としたリズムを取り入れるようになりました。ロシアの作曲家ピョートル・チャイコフスキー(1840~93)は、『エフゲニー・オネーギン』というオペラ(歌を中心に進められる劇のこと)の中で、舞踏会のシーンにポロネーズを取り入れました。この曲は、主人公の男性オネーギンと、少女のころから彼に恋をしていた女性タチヤーナが久しぶりに出会う舞踏会の場面で鳴り響きます。高らかに響くトランペットから始まって、弾むようなリズムにのって、華やかなメロディーで彩られていきます。
ワルトトイフェル:
『スケーターズ・ワルツ』作品183
みなさんは「冬のあそび」というと、何を思い浮かべますか? 寒い季節にこそ、スキーやスノーボード、スケートなどのスポーツをして体を動かし、元気に遊ぶのも楽しいですよね。今日聴いていただく『スケーターズ・ワルツ』は、美しいスケートリンクの光景が目に浮かぶような、優雅で軽快なワルツ(3拍子の舞曲)です。作曲者は、フランス人のエミール・ワルトトイフェル(1837~1915)という人です。彼は当時のフランスの皇帝ナポレオン3世のお城でピアニストとして演奏していた音楽家で、舞踏会の指揮者も務めていました。この作品は、ワルツが舞踏会やバレエなどで大流行していた1882年に書かれました。タイトルの『スケーターズ・ワルツThe Skaters’ Waltz』とは英語での呼び方で、ワルトトイフェルが自分で付けたフランス語のタイトルはLes Patineurs、日本語では「スケートをする人々」と訳されることがあります。聴いているだけでもスケートをしているような気分になってしまう、とても素敵な作品です。
ヴィヴァルディ:
ヴァイオリン協奏曲集『四季』作品8
第4番 ヘ短調 RV 297「冬」より 第2楽章
つづいてはイタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)の作品です。ヴァイオリン協奏曲集『四季』は「春」「夏」「秋」「冬」という4曲からなる曲集です。このように音楽作品にタイトルを付けたり言葉で内容を表すことは、ヴィヴァルディの時代には珍しいことでした。彼は一つ一つの曲に「ソネット」という短い詩のような言葉も寄せており、四季折々の情景を伝えています。「冬」には、「寒さに凍えながら 人々は足を踏みしめて走る/外は雨が降っている 暖炉のそばで安らぐ/氷の上はゆっくり歩かないと 滑って転んでしまう 北風の音が聞こえてくるけれど 春はもうすぐやってくる」といった内容のソネットが寄せられています。今日演奏される第2楽章は、「暖炉のそばで安らぐ」情景が描かれたもの。温かい家の中でほっこりとくつろぐのも、冬の楽しみですね。
プロコフィエフ:
組曲『キージェ中尉』作品60 より 第4曲「トロイカ」
「トロイカ」とは、3頭の馬によって走るロシアのソリのことです。深い雪に覆われたロシアではその昔、大地を元気に駆け巡るトロイカが郵便馬車として活躍していました。3頭もの馬が引っ張るソリは、かなりのスピードで走ることができるそうですよ。さて、そんな「トロイカ」をタイトルに持つこの曲は、ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフ(1891~1953)がもともと映画のために作った音楽を、あとからコンサート用に組曲へとアレンジしたものです。堂々とした序奏部分に続いて、音楽はシャンシャンシャン……という鈴やタンバリンの音とともに、ソリが颯爽と走ってくる様子を伝えます(トロイカは人々に道を開けてもらうため、遠くからでも聞こえるように鈴をつけて走っていました)。ヴァイオリンやヴィオラのピッツィカート(弦を指で弾く演奏の仕方)の音色は、馬たちが勢いよく跳ね上げる雪けむりのように響きます。
チャイコフスキー:
バレエ組曲『くるみ割り人形』作品71a より 第8曲「花のワルツ」
冒頭で「ポロネーズ」を取り上げたチャイコフスキーは、『白鳥の湖』や『眠りの森の美女』といったバレエ音楽の作曲家としても大変よく知られています。『くるみ割り人形』は、童話『くるみ割り人形とねずみの王様』をもとにしたバレエです。物語の舞台はクリスマス・イヴ。少女クララにプレゼントされたくるみ割り人形は、夜になると王子に姿を変え、クララをお菓子の国へと連れて行きます。お菓子の国ではクララと王子を歓迎するパーティーが開かれ、チョコレート、コーヒー、キャンディー、こんぺい糖などの妖精たちが次々と踊ります。「花のワルツ」は、お菓子の国でこんぺい糖の精が美しく踊る場面の音楽です。ゴージャスな雰囲気のこの曲は、このバレエの中でももっともよく知られています。チャイコフスキーは、このバレエのために作った音楽をアレンジして、コンサートでも演奏できるように8曲からなる組曲にまとめました。12月のクリスマス・シーズンには、コンサートでもよく演奏される人気作品です。「花のワルツ」は組曲の最後を華やかに飾ります。
コラム
音楽と踊り
その4 バレエ
キラキラと輝く美しい衣装を身にまとったダンサーたちが、高いジャンプをしたり、素早く回転したり、身体をやわらかく使ったりしながら踊るバレエ。その舞台にセリフはありませんが、鍛えぬかれたダンサーが、物語を伝えるように全身で演じ、指先まで表現力にあふれた踊りで人々を魅了します。そんなバレエが最初に起こったのは、今から500年以上も前にさかのぼります。
イタリアの王様のお城や、お金持ちの貴族の館で開かれたお祭りでは、大きな絵を背景にして華麗に舞うダンサーの踊りが、見た目にとても華やかな出し物の一つとして人気を呼びました。それがバレエの始まりです。その文化は、やがてフランスに渡って大きく花開きます。イタリアの貴族の女性がフランスの王様と結婚したのをきっかけに、フランスでも豪華絢爛なバレエのステージが繰り広げられるようになったのです。代々のフランスの王様たちはバレエをとても愛し、また国の文化的な力を誇るためにも、たくさんお金を使ってバレエを上演し、バレエ学校も作り、オペラ座で公演されるようになりました。
音楽は、バレエにとって欠かせない存在です。当初は、音楽は踊りの伴奏、いわば“添え物”のように考えられていました。しかし、今日のコンサートに登場したチャイコフスキーが活躍したロマン派の時代(19世紀)からは、バレエ音楽を依頼された作曲家たちが、単なる伴奏を超えた、とてもドラマティックな音楽作品を書き上げるようになりました。チャイコフスキーの「3大傑作」とされる『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』はもちろん、ロシア・バレエ団のために作曲されたストラヴィンスキーの『火の鳥』や『春の祭典』、ラヴェルの『ボレロ』といった作品は、バレエとともに生まれた名曲なのです。
(文 飯田有抄)