プログラムノート

第83回 2022年9月4日(日)『秋の風景』

「こども定期演奏会 2022」テーマ曲(小田実結子 編曲):
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』
Ryuto Yasuda / Teppei Asou (arr. Miyuko Oda):
Theme Music of “Subscription Concert for Children”

ドヴォルジャーク:演奏会用序曲『謝肉祭』作品92
Antonín Dvořák: Carnival, Concert Overture, Op. 92

ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番 ヘ長調 作品102 より 第3楽章 *
Dmitry Shostakovich: Piano Concerto No. 2 in F Major, Op. 102 III. Allegro

角野隼斗(星出尚志 編曲):『ティンカーランド』*
Hayato Sumino (arr. Takashi Hoshide): Tinkerland

J. ウィリアムズ:映画『E. T.』より「フライング・テーマ」
John Williams: “Flying Theme” from E. T.

ショスタコーヴィチ:交響詩『十月革命』作品131
Dmitry Shostakovich: October, Op. 131

指揮:川瀬賢太郎
Kentaro Kawase, Conductor

ピアノ:角野隼斗 *
Hayato Sumino, Piano

東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra

司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC

プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2022」テーマ曲
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』

安田龍人さん(中学2年生)からのコメント

 僕は日々様々な曲を作っています。それらをいつか多くの人に聴いてもらいたい、という事をこの「王国の繁栄」という題名に込めました。昔から、言葉にできない気持ちを音楽で表現してきました。自分の心情を人へ音で伝えることができたら、他の曲に込められた想いも理解する事ができるのだと思います。是非聴いてください!

麻生哲平さん(小学6年生)からのコメント

 友達と遊ぶのが好きなので「ともだち」という題名にしました。最初の明るい部分は友達と仲良く遊んでいるイメージです。短調の部分はケンカやもめごとになる時をイメージしました。最後は仲直りして楽しく遊び、自分も友達もいい気分になって明るくなります。この曲を聴いて楽しい気分になってもらえたらいいなと思いました。

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)


ドヴォルジャーク:
演奏会用序曲『謝肉祭』作品92

 「謝肉祭」とは、キリスト教から起こったお祭りです。キリスト教にはイースターというイエス・キリストの復活を祝う日があります。その昔、イースターの前の40日間はお肉を食べてはいけません、という約束がありました。そこで、食べられなくなる前におなかいっぱいお肉を食べておこう!というお祭りが開かれるようになりました。それが謝肉祭=カーニバルの始まりです。人々はお肉を食べ、お酒を飲み、仮面をつけた劇を上演したりして、賑やかに過ごします。ヨーロッパでは、こどもたちも楽しみにしているお祭りです。
 そんな謝肉祭をテーマとした音楽を、何人もの作曲家たちが残しています。チェコの作曲家アントニーン・ドヴォルジャーク(1841~1904)もその一人です。この曲はドヴォルジャークが50歳の時(1891年)に書かれた作品です。シンバルやタンバリンなどの打楽器が賑やかに鳴り響く曲の始まりから、お祭りムードが満載です。途中はゆったりとしたヴァイオリン独奏の美しいメロディーなども登場し、カーニバルのさまざまな場面や楽しい雰囲気が伝わる曲です。

ショスタコーヴィチ:
ピアノ協奏曲第2番 ヘ長調 作品102 より 第3楽章

 ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906~75)は、今のロシアが「ソヴィエト連邦」と呼ばれる共和国の時代だったころの作曲家です。ソヴィエト連邦では、政治をする偉い人が大きな権力を持っていたので、その人と違った考え方をする人は注意を受けたり、罰を受けたりすることもありました。もともと音楽や文学や美術といった芸術は、作る人たちの発想を自由に表現できるはずのものですが、ソヴィエトでは芸術家たちの作品にも政治家のチェックが入りました。「これは社会を乱す悪いものだ」と判断されると、どんなに新しい表現や優れた作品でも、強く非難されたり上演ができなくなる時代でした。ショスタコーヴィチはそうした厳しい時代を生き抜いて、なんとか自分の音楽表現を続けました。
 このピアノ協奏曲第2番はショスタコーヴィチが51歳になる年、1957年に作られました。そのころには、芸術に厳しい判断を下していたスターリンという政治家がこの世を去っていたので、ショスタコーヴィチはようやく自分らしい音楽の表現がのびのびできるようになっていました。そこで、自分の愛する息子マキシムの19歳の誕生日プレゼントとしてこの作品を書きました。ピアノが得意で、のちに指揮者となるマキシムは、モスクワ音楽院の卒業演奏会でこの作品を初演しています。今日演奏される第3楽章は、ピアノ教則本でお馴染みの「ハノン」による指運動のためのフレーズが登場します。音楽院を卒業するマキシムへの、ちょっとしたジョークを交えた楽しく元気いっぱいの音楽です。

角野隼斗(星出尚志 編曲):
『ティンカーランド』

 クラシック音楽の世界では、ショパンやリストのように、作曲家がピアニストでもある“コンポーザー・ピアニスト”たちが活躍してきました。本日のピアニスト角野隼斗さんは、現代のコンポーザー・ピアニストとも言えるアーティストです。その場で音楽をどんどん生み出す即興演奏も得意な角野さんですが、この曲はアルバム『HAYATOSM』のために書き下ろされた作品です。トイピアノと鍵盤ハーモニカという二つの小さな楽器、そしてグランドピアノを組み合わせたこの曲は、「子ども心に帰って全力で遊ぼう!」という思いで作られたそうです。タイトルは、「ピーターパン」の物語に出てくるネバーランドやティンカーベル、そして角野さんがYouTubeで使用している名前「かてぃん」が組み合わされています。すばしっこく動き回るメロディーが登場したかと思えば、ちょっぴり大人っぽいブルースやワルツの雰囲気にもなる楽しい曲です。今日はオーケストラのゴージャスな伴奏のついたバージョンで演奏されます。

J. ウィリアムズ:
映画『E. T.』より「フライング・テーマ」

 ある夜、宇宙船に乗った小さな宇宙人(地球外生命体=E. T. )たちが地球にやってきました。人間が急に近づいてきたので、宇宙船は大慌てで飛び立ってしまいました。一人の宇宙人を置いてけぼりにしたまま……。1982年に作られ、大ヒットした映画『E. T.』は、少年エリオットが地球に取り残されたE. T. と出会い、友だちになる話です。大人たちは珍しいE. T. を捕まえようとするのですが、エリオットと仲間たちはE. T. を宇宙に帰してあげようと必死に守ります。E. T. を乗せた自転車が空に飛び立つ(フライングする)シーン、そしてE. T. を迎えにきた宇宙船が夜空へ向かって離陸するシーンにぴったりな音楽がこの「フライング・テーマ」で、映画のメイン・テーマ曲です。作曲したのは、『スター・ウォーズ』や『ジュラシック・パーク』など、数々の傑作映画の音楽を手がけているアメリカの作曲家ジョン・ウィリアムズ(1932~ )です。オーケストラの楽器がカラフルに鳴り響きながら、広々とした空と宇宙の世界を描き出します。


ショスタコーヴィチ:
交響詩『十月革命』作品131

 おしまいは再びショスタコーヴィチの作品です。タイトルにある「革命」とは、国を治めている偉い支配者に向かって、支配されていた人たちが反発し、新しい政治の仕組みを作ろうと立ち上がって戦うことを言います。「十月革命」というのは、ロシアで1917年に起こった革命のことで、レーニンという政治家が君臨するソヴィエト連邦が誕生するきっかけとなりました。
 ショスタコーヴィチがこのオーケストラ曲を作ったのは、ピアノ協奏曲第2番から10年後の1967年で、十月革命から50年が経った記念作品として書かれました。曲は重々しい革命歌のようなメロディーから始まって荒々しく展開していきます。ショスタコーヴィチは過去に自分が作曲した映画音楽のメロディーも使いながら、激しい戦いの様子を描き、おしまいは勝利を宣言するような明るい雰囲気で締めくくっています。曲は息子マキシムの指揮によって作曲年に初演されました。

コラム
音楽と踊り
その3 カーニバル

 本日のプログラムの2曲目は「謝肉祭」を題材にした音楽でした。謝肉祭=カーニバルについては、解説の中でもお伝えしましたが、キリスト教のイースター(復活祭)と関係していて、2月~3月を中心に開かれます。
 でも、ドイツ語を話す地域では伝統的に、秋も深まるころからカーニバル・シーズンが盛大にスタートします。ケルンやデュッセルドルフやマインツといったライン川沿いの都市では、11月11日11時11分にお祭りが幕を開けます。山車が出たり、お菓子がふるまわれたり、仮装をした人たちが街をパレードして、それはそれは賑やかな雰囲気となるのです。お祭りに音楽はぜったいに欠かせませんよね。ドイツのパレードでは、吹奏楽団が演奏しながら行進したり、山車のスピーカーからポップスのような軽快な音楽が流れたりもします。またドイツの人なら誰でも知っているカーニバルの定番ソング(「Einmal am Rhein(ライン川で一度)」や「Viva Colonia(ビバ・コロニア)」など)を、みんなで歌って盛り上げます。
 カーニバルの音楽や踊りで最もよく知られているのは、南米の国ブラジルで開かれる「リオのカーニバル」の「サンバ」でしょう。サンバは、アフリカから奴隷として連れてこられた人々の音楽と、ブラジルの音楽とが混ざって生まれた音楽と踊りです。大太鼓や小太鼓の元気なリズムや人々の歌声が響く中、大きな羽など派手な衣装をつけた人たちが、楽しそうに、でもとっても細かくて複雑そうなステップを踏んで踊ります。そのリズムの種類はなんと100パターン以上もあるそうです。
 ちなみに、日本でもそのサンバが紹介される大きなイベントがあります。「浅草サンバカーニバル」は、40年も続くサンバのコンテストです。
 2022年の段階では感染症の影響で、残念ながらまだカーニバルの状況も元通りではありません。みんながハメを外せる楽しく平和なカーニバルが世界中に戻ってくるといいですね。

(文 飯田有抄)