第82回 2022年7月10日(日)『夏だ、祭りだ!』
「こども定期演奏会 2022」テーマ曲(小田実結子 編曲):
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』
Ryuto Yasuda / Teppei Asou (arr. Miyuko Oda):
Theme Music of “Subscription Concert for Children”
メンデルスゾーン:付随音楽『真夏の夜の夢』序曲 作品21
Felix Mendelssohn: A Midsummer Night’s Dream Overture, Op. 21
ピアソラ(デシャトニコフ 編曲):
『ブエノスアイレスの四季』より 第1番「ブエノスアイレスの夏」*
Astor Piazzolla (arr. Leonid Desyatnikov):
No. 1 “Summer in Buenos Aires” from The Four Seasons of Buenos Aires
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集『四季』作品8 第2番 ト短調 RV 315「夏」より 第3楽章 *
Antonio Vivaldi: No. 2 in G Minor, RV 315, “L’estate” from Le Quattro Stagioni, Op. 8
III. Presto
デュカス:『魔法使いの弟子』(おはなし台本:新井鷗子、語り:坪井直樹)
Paul Dukas: L’apprenti sorcier
(Script: Oko Arai, Reciter: Naoki Tsuboi)
J. シュトラウスⅡ世:ポルカ・シュネル『雷鳴と稲妻』作品324
Johann Strauss Jr.: Unter Donner und Blitz Polka schnell, Op. 324
指揮:鈴木優人
Masato Suzuki, Conductor
ヴァイオリン:神尾真由子 *
Mayuko Kamio, Violin
東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra
司会&語り:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC & Reciter
プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2022」テーマ曲
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』
安田龍人さん(中学2年生)からのコメント僕は日々様々な曲を作っています。それらをいつか多くの人に聴いてもらいたい、という事をこの「王国の繁栄」という題名に込めました。昔から、言葉にできない気持ちを音楽で表現してきました。自分の心情を人へ音で伝えることができたら、他の曲に込められた想いも理解する事ができるのだと思います。是非聴いてください!
麻生哲平さん(小学6年生)からのコメント
友達と遊ぶのが好きなので「ともだち」という題名にしました。最初の明るい部分は友達と仲良く遊んでいるイメージです。短調の部分はケンカやもめごとになる時をイメージしました。最後は仲直りして楽しく遊び、自分も友達もいい気分になって明るくなります。この曲を聴いて楽しい気分になってもらえたらいいなと思いました。
飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
メンデルスゾーン:
付随音楽『真夏の夜の夢』序曲 作品21
序曲とは、劇が始まる前に演奏される音楽のことで、「これからどんな物語が始まるのかな?」と、みんなをワクワクとさせてくれる音楽です。序曲だけがコンサートで演奏されることもよくあります。夏の到来を告げるような晴れやかなこの序曲は、ドイツの作曲家フェリックス・メンデルスゾーン(1809~47)によるもので、彼がまだ17歳の時に作曲されました。メンデルスゾーンのおじいさんは哲学者、お父さんは銀行家で、とても裕福な家庭に育ったメンデルスゾーンは、外国語や文学、そして音楽を愛する才能に富んだ少年でした。そんな彼が、イギリスの有名な劇作家シェクスピアの戯曲(劇の台本のように書かれた文学のこと)『真夏の夜の夢』を読んで大きな感動を受けて作ったのがこの曲です。ですから、実際に劇を上演するために作曲したわけではなく、17歳のメンデルスゾーンが自由にイメージを膨らませてのびのびと作った音楽なのです。管楽器の静かな響きから、すぐにすばしっこい弦楽器の動きが聞こえます。やがて弾けるように堂々と明るい主題が聞こえ、エレガントなメロディーも登場します。昔から伝わる民謡をベースにしたメロディーも使われています。
ピアソラ(デシャトニコフ 編曲):
『ブエノスアイレスの四季』より 第1番「ブエノスアイレスの夏」
次の曲も劇と関係があります。「ブエノスアイレスの夏」はアルゼンチン生まれの作曲家アストル・ピアソラ(1921~92)が、1965年にアルベルト・ロドリゲス・ムニョスという人の書いた劇のために作曲したものです。ブエノスアイレスは、南アメリカ大陸の国アルゼンチンの首都で大都会です。ピアソラは「夏」だけでなく、あとから「冬」、「春」、「秋」も作曲したので、現在では『ブエノスアイレスの四季』としてまとめて演奏されることもあります。もとの曲は、ピアソラが結成していた五重奏団、つまりヴァイオリン、ピアノ、エレキ・ギター、コントラバス、バンドネオンという楽器の編成で演奏するために書かれていますが、今日は、レオニード・デシャトニコフという作曲家によるヴァイオリンと弦楽オーケストラ用の編曲版で聴いてもらいます。ところで、南半球の国は、日本のように北半球にある国とは季節が逆になるのを知っていますか? つまりブエノスアイレスが夏の時、北半球の国々は冬なのです。同じく四季をテーマにした音楽に、次にご紹介するヴィヴァルディの作品がありますが、このデシャトニコフの編曲版には、ヴィヴァルディの「冬」のワンフレーズが挿入されています。
なお、ピアソラはアルゼンチンに古くから伝わるタンゴという伝統音楽を自分の音楽に取り入れて数々の傑作を残しました。タンゴについて、そしてバンドネオンという楽器については、コラムのページも読んでくださいね。
ヴィヴァルディ:
ヴァイオリン協奏曲集『四季』作品8
第2番 ト短調 RV 315「夏」より 第3楽章
先ほどのピアソラの曲の中に少しだけ登場したアントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)の『四季』は、季節をテーマにした音楽作品のなかでもっとも有名な曲です。春・夏・秋・冬の4曲があり、それぞれ3つの楽章でできています。ヴィヴァルディはこの曲に季節の様子を伝えるソネットという短い詩のような言葉を寄せています。「夏」のソネットが描いているシーンは次のような内容です。降り注ぐ太陽の光に、動物たちは暑さでもうろうとしており、カッコウや鳩やゴシキヒワが鳴いています。そこへ突然冬のような北風が吹きはじめ、雷鳴がとどろき、雹が降って農作物を荒らしてしまいます……。今日演奏される第3楽章は、雹が降る嵐のシーンです。真夏には私たちも“ゲリラ豪雨”に見舞われることがありますが、この楽章は突然訪れる夏の嵐を描いています。
デュカス:
『魔法使いの弟子』
このオーケストラ曲は、フランスの作曲家のポール・デュカス(1865~1935)が1897年に作りました。デュカスはあまりたくさんの作品は残さなかった人ですが、『魔法使いの弟子』はディズニー映画の『ファンタジア』で使われていたことでもよく知られています。それにしても、『魔法使いの弟子』とは気になるタイトルですよね。この曲にはストーリーがあるのです。とある魔法使いの弟子が、掃除の仕事をサボりたいと思いました。そこで、年老いた師匠が外へ出かけた隙に、ほうきに習いたての呪文をかけて、自分の代わりに仕事をさせようとするのですが……。さて、物語の結末はどうなってしまうのでしょうか。今日は語り付きの演奏で楽しんでくださいね。デュカスが音楽にしたこのお話には元ネタがあります。それはドイツの文学者ゲーテが、古いギリシャのお話に基づいて書いたバラード(詩の一種)です。デュカスは、オーケストラの楽器を巧みに扱いながら、特に低い音域を奏でる木管楽器のファゴットのユニークな音色を生かして、物語の場面が生き生きと伝わる音楽作品に仕上げました。楽譜には「交響的スケルツォ」という言葉も添えられています。スケルツォとは、テンポの速い、おどけた感じの楽しい音楽のことです。
J. シュトラウスⅡ世:
ポルカ・シュネル『雷鳴と稲妻』作品324
夏といえば大きな入道雲。そして入道雲といえばゴロゴロピカーッとくる雷ですね。大きな雷の音や大雨はちょっと怖いけれど、そんな天気の様子を楽しい音楽で表した人がいます。ウィーンの音楽家ヨハン・シュトラウスⅡ世(1825~99)です。彼はワルツやポルカといったノリの良い踊りの曲をたくさん作り、ウィーン中の舞踏会から引っ張りだこの人気者でした。ポルカ・シュネル(速いポルカ、の意味)『雷鳴と稲妻』は、とある芸術家協会のために1868年に作曲されました。大太鼓のゴロゴロという音や、シンバルがシャーンシャーンと元気に鳴り響く音は、まさに「雷鳴と稲妻」。オーケストラ全体でスピーディーに突き進んでいく音楽は、通り雨のように軽快です! ヴィヴァルディが描いた夏の嵐の様子とは、また一味違った風景が広がります。
コラム
音楽と踊り
その2 アルゼンチンのタンゴ
今日のプログラムで登場したアストル・ピアソラのところでご紹介した通り、南アメリカ大陸の国アルゼンチンには古くから伝わるタンゴという音楽があります。今日の作品はオーケストラの編成で聴いてもらいましたが、通常のアルゼンチン・タンゴは、バンドネオンという、アコーディオンのように蛇腹を動かして演奏する楽器が使われるのが特徴です。アルゼンチンは、16世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパの国スペインによって植民地として治められていました。そのころにヨーロッパから渡ってきた人々や、労働者として連れてこられたアフリカの人々の奏でる音楽がもとになり、現地の音楽と混ざり合いながら、だんだんとアルゼンチン・タンゴが形作られていきます。19世紀のはじめには、港町のラ・ボカという地区で盛んに演奏されるようになりました。ヨーロッパのクラシック音楽が宮廷や教会から発展していったのとは違い、アルゼンチン・タンゴはカフェや酒場など、決して裕福ではなかった移住者たちの集まる場所で流行したそうです。力強いリズムによって独特なエネルギーを感じさせるタンゴは、どこか物悲しさもたたえています。
そんなタンゴには、歌詞がついて歌われることもありますし、踊りが付けられることもあります。「サロンタンゴ」と呼ばれるこのアルゼンチンの踊りは、男性と女性が手と手を取り合い、自由に即興的に踊られるものとして発展してきました。華麗なステップで踊る凛々しい男女の姿はとても美しく、日本でもとても人気のあるダンスです。アルゼンチン・タンゴを踊るダンス・パーティーは「ミロンガ」と呼ばれます。ミロンガは大人たちが集う社交の場。エレガントなダンスを通じて人々が出会い、絆を深めていく素敵な文化は、今も続いています。
(文 飯田有抄)