第81回 2022年5月8日(日)『新緑のころ』
「こども定期演奏会 2022」テーマ曲(小田実結子 編曲):
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』
Ryuto Yasuda / Teppei Asou (arr. Miyuko Oda):
Theme Music of “Subscription Concert for Children”
シューマン:交響曲第1番 変ロ長調 作品38「春」より 第1楽章
Robert Schumann: Symphony No. 1 in B-flat Major, Op. 38, “Spring”
I. Andante un poco maestoso—Allegro molto vivace
J. シュトラウスⅡ世:ポルカ・フランセーズ
『クラップフェンの森で』作品336
Johann Strauss Jr.: Im Krapfenwald’l, Polka française, Op. 336
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64より 第1楽章 *
Felix Mendelssohn: Violin Concerto in E Minor, Op. 64
I. Allegro molto appassionato
E. シュトラウス:ポルカ・シュネル『テープは切られた』作品45
Eduard Strauss: Bahn frei!, Polka schnell, Op. 45
アルヴェーン:スウェーデン狂詩曲第1番「夏至祭の夜明かし」
Hugo Alfvén: Swedish Rhapsody No. 1, “Midsommarvaka”
指揮:角田鋼亮
Kosuke Tsunoda, Conductor
ヴァイオリン:HIMARI *
HIMARI, Violin
東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra
司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC
プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2022」テーマ曲
安田龍人:『王国の繁栄』、麻生哲平:『ともだち』
安田龍人さん(中学2年生)からのコメント僕は日々様々な曲を作っています。それらをいつか多くの人に聴いてもらいたい、という事をこの「王国の繁栄」という題名に込めました。昔から、言葉にできない気持ちを音楽で表現してきました。自分の心情を人へ音で伝えることができたら、他の曲に込められた想いも理解する事ができるのだと思います。是非聴いてください!
麻生哲平さん(小学6年生)からのコメント
友達と遊ぶのが好きなので「ともだち」という題名にしました。最初の明るい部分は友達と仲良く遊んでいるイメージです。短調の部分はケンカやもめごとになる時をイメージしました。最後は仲直りして楽しく遊び、自分も友達もいい気分になって明るくなります。この曲を聴いて楽しい気分になってもらえたらいいなと思いました。
飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
今年のこども定期演奏会のテーマは「オーケストラ春夏秋冬」です。オーケストラで表現される豊かな四季の情景を楽しんでいきましょう。今日は「春」をテーマにした音楽をお届けします。
シューマン:
交響曲第1番 変ロ長調 作品38「春」より 第1楽章
はじめに聴いてもらうのは、「春」というタイトルで親しまれている交響曲です。ドイツの作曲家ロベルト・シューマン(1810~56)が作りました。シューマンが実際に手書きして残した楽譜(自筆譜といいます)には、「春の交響曲」という書き込みがあり、第1楽章の最初の部分には、「谷間に春が花開く!」という言葉も添えられています。この言葉は、アドルフ・ベットガーというドイツの詩人の詩からとられたものです。子どものころから物語や詩を読むのが大好きだったシューマンは、ベットガーの詩からイメージを膨らませて、この交響曲を作ったと考えられています。この作品を書いた前年の1840年、シューマンはクララという素晴らしいピアニストと結婚しました。クララのお父さんの大反対を押し切り、ようやく愛する人と結ばれて“人生の春”を迎えたシューマンが、希望に燃えて完成させた最初の交響曲です。この曲を初めて演奏した指揮者はシューマンの親友で、このあとのプログラムにも登場するメンデルスゾーンです。初演は大成功を収めました。
シューマンが「春の始まり」と呼んだ第1楽章は、ホルンとトランペットが堂々と奏でる序奏で幕を開けます。やがてそのモチーフにもとづく明るく勢いのあるメロディーが登場し、春の輝きやエネルギーを感じさせます。
J. シュトラウスⅡ世:
ポルカ・フランセーズ『クラップフェンの森で』作品336
続いては、ポルカという舞曲(踊りの曲)を聴いてもらいます。「フランセーズ」とは、「フランス風の」という意味です。作曲したのは、音楽の都ウィーンで大活躍したヨハン・シュトラウスⅡ世(1825~99)です(Ⅱ世というからにはⅠ世もいます。同じ名前のお父さんで、Ⅰ世も有名な音楽家です)。1869年に初めて演奏されたとき、この曲は『パヴロフスクの森で』というタイトルでした。パヴロフスクというのは、ロシアにある駅の名前です。その頃シュトラウスⅡ世は、ロシアの鉄道会社からたのまれて、毎年夏にこの駅でコンサートをおこなっていたのです。カッコウや小鳥たちの声(笛で表現されています)が聞こえてくるこの曲を聴いたお客さんは大喜び。何度もアンコールの演奏がされたそうです。
その後、ウィーンで楽譜を出版することになったとき、ウィーンの人々に親しみやすいタイトルに変えられました。ウィーンの北西に広がる森にちなんで『クラップフェンの森で』というタイトルとなり、広く愛されてきました。ポルカについては、10ページの「コラム」でもご紹介しますので、そちらも読んでくださいね。
メンデルスゾーン:
ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64より 第1楽章
歴史に名を残している音楽家の中には、小さいころから周りが驚くような才能を発揮した人がいます。ドイツの作曲家フェリックス・メンデルスゾーン(1809~47)もその一人です。銀行家として働くお金持ちのお父さんのもとに生まれ、ピアノの手ほどきをお母さんから受けるという恵まれた家庭で育ち、なんと9歳でピアニストとしてデビューしたそうです。そんなメンデルスゾーンの作品のなかでも、もっともよく知られているのが、このヴァイオリン協奏曲です。ベートーヴェンやブラームスといった、同じドイツ出身の作曲家たちのヴァイオリン協奏曲とならんで、「3大協奏曲」に数えられています。この曲はメンデルスゾーンが35歳の年に完成しました。そのころメンデルスゾーンは、ライプツィヒという街のオーケストラの指揮者として活躍していました。その楽団にはフェルディナント・ダーヴィト(1810~73)という優れたヴァイオリン奏者がいて、その人からアドバイスをもらいながら、じっくりと6年をかけて完成させました。本日演奏される第1楽章は、オーケストラの短い序奏に続いてすぐにヴァイオリン独奏が登場し、ロマンティックで繊細なメロディーを奏でます。
E. シュトラウス:
ポルカ・シュネル『テープは切られた』作品45
ここでふたたびポルカの登場です。「シュネル」とは、「速い」という意味です。今度は、先ほど登場したシュトラウスⅡ世の弟で、エドゥアルト・シュトラウス(1835~1916)が作った曲です。もともとの曲のタイトルはドイツ語で「バーン・フライ! Bahn frei!」といいます。バーンBahnという言葉には「鉄道」、フライfreiという言葉には「自由」という意味があります。2語をつなげると、「道を開けてくれ!」という意味があります。この曲が作られた1869年は、エドゥアルト・シュトラウスの住んでいたオーストリアに鉄道の会社が作られてから30年目を迎える記念の年でした。この鉄道はオーストリアでもっとも古く、ウィーンからポーランドのワルシャワまでをつないでいました。30年をお祝いする舞踏会で演奏するために、エドゥアルトがこの曲を書きました。曲は、汽車(当時は電車ではなく蒸気機関車です)が出発する合図の汽笛から始まり、軽快に走っていく情景を表現しています。
アルヴェーン:
スウェーデン狂詩曲第1番「夏至祭の夜明かし」
おしまいには季節を先取りして、春から夏へと気分を変えていきましょう。スウェーデンというヨーロッパの北に位置する国の作曲家ヒューゴ・アルヴェーン(1872~1960)による「夏至祭の夜明かし」という曲です。タイトルにある「夏至」とは、1年のなかで昼間の時間がもっとも長くなる日のことです。スウェーデンのような北国では、真冬は昼でも太陽が数時間しか照らさず、夜の長い日々が続きます。ところが夏は昼の時間がぐんと長くなり、しまいには夜でも太陽が沈まない「白夜」となります。北国では、そんな夏がやってくるのをお祝いして「夏至祭」が開かれます。指揮者としても活躍し、オーケストラ作品を得意としていたアルヴェーンが1903年に作曲したこの「夏至祭の夜明かし」は、夏至をむかえる前の晩に、人々が踊ったりゲームをしたりして楽しんでいる様子を、ほのぼのと、賑やかな曲調で描いています。スウェーデンに昔から伝わる民謡をベースにしたメロディーも使われています。
コラム
音楽と踊り
その1 ~ポルカとウィーンの舞踏会
今年のこども定期演奏会では、毎回プログラムに舞曲が登場したり、舞曲を愛した作曲家たちが登場します。このコラムでは、そんな音楽と踊りにちなんだお話をお届けします。今日のプログラムでは、ウィーンで活躍した音楽家シュトラウス兄弟による「ポルカ」が2曲演奏されました。ポルカとは2拍子の舞曲です。もともとはボヘミアという地方(今のチェコ共和国のあたり)で今から200年くらい前に生まれた、男女のペアで踊られるダンスですが、だんだんとヨーロッパ中に広まっていったと言われています。テンポの速い曲が多いですが、今日の3曲目に演奏された『クラップフェンの森で』のように、さほど速くはないものもあります。
J. シュトラウスⅠ世、Ⅱ世、そしてⅡ世の弟たちが作曲し、楽団を率いて演奏していたウィーンでは、ポルカのほかにもワルツやギャロップやカドリーユといったダンスと舞曲が大流行していました。シュトラウス親子の楽団は、あちこちから引っ張りだこの売れっ子オーケストラでした。きっと彼らの作る音楽は、ノリがよくて踊りやすかったのでしょうね。
彼らがどんな場所で演奏していたかというと、レストランやダンスホール、そして今回のプログラム・ノートでもお伝えしたように、駅などの野外を会場にしたイベントなどです。とくにウィーンのダンスホールでは、冬になると毎晩のように舞踏会が開かれます。その文化は今でも続いています。男性は燕尾服、女性はロングドレスに長い手袋をつけて、おめかしをして参加します。会話を楽しんだり、お酒を飲んだりしながら、みんなで元気に踊って朝まで過ごします。そんなふうに冬の夜を楽しく乗り切って、明るい春を迎えようというのが、ウィーンの人たちの習慣なのです。
(文 飯田有抄)