プログラムノート

第80回 2021年12月12日(日)『近現代』

石井かのん(和田 薫 編曲):
「こども定期演奏会 2021」テーマ曲『まぼろし』
Kanon Ishii (arr. Kaoru Wada): Theme Music of “Subscription Concert for Children”

コープランド:バレエ組曲『ロデオ―4つのダンス・エピソード』より
第4曲「ホーダウン」
Aaron Copland: No. 4 “Hoe-Down” from Rodeo―Four Dance Episodes Suite

「新曲チャレンジ・プロジェクト」(こどものモチーフによる若手作曲家作品)
小田実結子:『La danse des enfants 子供たちの踊り』 [世界初演]
Miyuko Oda: La danse des enfants [World Premiere]

ハチャトゥリヤン:組曲『仮面舞踏会』より 第1曲「ワルツ」*
Aram Khachaturian: No. 1 “Waltz” from Masquerade Suite

マルケス:ダンソン 第2番
Arturo Márquez: Danzón No. 2

ホルスト:組曲『惑星』作品32 より 第4曲「木星、快楽をもたらす者」
Gustav Holst: No. 4 “Jupiter, the Bringer of Jollity” from The Planets Suite, Op. 32

指揮:原田慶太楼
Keitaro Harada, Conductor

東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra

司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC

こども奏者*

第1ヴァイオリン:
大西楓香(小学3年生)、今水レイ(小学5年生)、花田理子(小学5年生)、
佐藤由梛(小学6年生)、梶谷 茜(中学2年生)、楠元蓮生(中学2年生)、
礒谷真光(中学3年生)、上野凜子(中学3年生)、杉森友美(中学3年生)

第2ヴァイオリン:
加附愛梨(小学3年生)、北野凛和(小学3年生)、池上綾音(小学4年生)、
小峰真矢(小学4年生)、德野有理(小学5年生)、秋濱香里子(小学6年生)、
神成美玖里(中学3年生)、渡部美森(中学3年生)

チェロ:
川村 光(小学2年生)、マヴロノヴ健太(小学4年生)、
川村未来(小学5年生)、平田孝雄(中学3年生)

フルート:
江川カンナ(中学2年生)、澤田葵衣(中学2年生)

トランペット:
松本龍大(中学2年生)

新曲チャレンジ・プロジェクト

 2021年に20周年を迎える「こども定期演奏会」では、子どもたちと音楽家を結ぶ新企画として、子どもの書いた短いメロディーを使った新曲を、若手作曲家から募集しました。今回の新曲のテーマは「踊り」。力作が揃った中、原田慶太楼マエストロらによる審査の結果、小田実結子さんの『La danse des enfants 子供たちの踊り』が選ばれました。
 この曲では、6つの子どものメロディーが使用されています。小田さんのプログラム・ノートを参考に、 どこにどのメロディーが使われているのか、 ぜひ探してみてください!

  • ①鏡蒼矢
    (かがみそうや)
    小学5年生

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  • ②麻生歩花・哲平
    (あそうあゆか・てっぺい)
    中学1年生/小学5年生

    more…

  • ③船山慧悟
    (ふなやまけいご)
    小学3年生

    more…

  • ④村岡柚香
    (むらおかゆずか)
    中学3年生

    more…

  • ⑤グルート シャノン 愛真
    (ぐるーとしゃのんえま)
    中学1年生

    more…

  • ⑥山本亜美菜
    (やまもとあみな)
    小学4年生

    more…




プログラム・ノート
小田実結子

 今回の企画は、子供たちの作った6つの主題のうち2つ以上を使うというものでしたが、自分の書いた音符に命が吹き込まれ、ホールに響き渡る感動を全員に味わってもらいたいと思い、私は6つ全てを活かして曲を作りました。単独で提示したり、複数を組み合わせて同時に鳴らしたり、色々な形で主題を散りばめています。また今年のテーマ「踊り」にちなみ、ワルツやボレロといったダンスのリズムも登場します。是非耳を澄ませてみてください。
 ティンパニによる導入に続き、まずは鏡さんの5拍子の主題が提示されます。少しずつ楽器数を増やしながら盛り上がり、麻生さんの主題へ。木管楽器を中心に軽やかに演奏されます。フルートとハープが船山さんの主題を奏でると、3拍子のワルツが始まり、村岡さん・グルートさんの主題が弦楽器に登場。続いて小太鼓によるボレロのリズムに乗せて、山本さんの主題をトランペットやピッコロが歌います。その後も各主題が次々登場しながら展開し、再現部でもう一度5拍子に。終盤では拡大形を使い、3つの主題が一緒に鳴る部分もあります。
 子供たちのアイディアが詰まったこの作品を、たくさんの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。

「こども定期演奏会 2021」テーマ曲
石井かのん:『まぼろし』

石井かのんさん(中学1年生)からのコメント

 私は以前こども奏者としてこども定期演奏会に出演させていただきました。サントリーホールという大舞台で演奏できる喜び。オーケストラの迫力ある音。一生忘れることのできない素晴らしい思い出です。
 この曲は昨年のこども定期の帰りに思いついたメロディーから作りました。dolceの優しい旋律から始まり、ときに激しくときに弾むように「まぼろし」の中を旅するようなイメージです。
 音は私たちを、そこでしか味わえない世界の中に引き込む力を持っています。この曲によって、皆さんを音楽の夢の世界にお招きできたら嬉しいです。

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
【タイムトラベル最終回は、20世紀に生まれた音楽!】

 今年のこども定期演奏会は、オーケストラというタイムマシーンに乗って、皆さんといろんな時代の音楽を旅してきました。最終回の今日は20世紀に作られたアメリカ、ロシア、メキシコ、イギリスの音楽を聴きましょう!


コープランド:
バレエ組曲『ロデオ―4つのダンス・エピソード』より 第4曲「ホーダウン」

 最初に聴いてもらうのは、20世紀にアメリカ合衆国でもっとも活躍した作曲家の一人、アーロン・コープランド(1900~90)の作品です。コープランドは20歳のころ、音楽の勉強のために故郷アメリカからフランスのパリへと渡りました。当時のパリでは、ロシアのバレエ団「バレエ・リュス」がユニークな演目や踊りで大きな人気を集めていました。コープランドも彼らのステージを見て感動を覚えたに違いありません。
 24歳のころ、コープランドはアメリカに帰国し、本格的に作曲を始めます。1938年には、アメリカのカウボーイ時代の伝説の人物をテーマにしたバレエ『ビリー・ザ・キッド』の音楽で大きな成功を収めました。さらに1942年には、「バレエ・リュス・ド・モンテカルロ」(さきほどの「バレエ・リュス」解散後に再結成されたバレエ団)から頼まれて、やはりカウボーイの物語を描いたバレエ『ロデオ』のための音楽を作りました。このバレエのストーリーは、テキサス州の少女が村一番のカウボーイに恋をして、自分もおてんば娘となってドタバタ劇を巻き起こし、最後はハッピーエンドに終わるというもの。コープランドはバレエ用の音楽からオーケストラ用の組曲(全4曲)をまとめました。今日演奏される「ホーダウン」はその第4曲で、リズミカルで楽しい音楽です。アメリカ民謡の素朴で明るいメロディーも使われています。

ハチャトゥリヤン:
組曲『仮面舞踏会』より 第1曲「ワルツ」

 仮面舞踏会とはその名のとおり、人々が顔に仮面をつけたり変装をしたりして参加するダンス・パーティーのこと。ある仮面舞踏会で、自分の妻に裏切られたと勘違いした男性が、次の舞踏会の時に、毒入りのアイスクリームを彼女に食べさせてしまう……。そんな悲劇を描いた演劇『仮面舞踏会』が、1941年にロシアのモスクワで上演されました。劇を書いたのはロシアの詩人・作家のレールモントフという人です。そしてその劇のために音楽を作ったのは、旧ソビエト連邦で作曲家・教師として活動したアラム・ハチャトゥリヤン(1903~78)です。彼は全部で14曲の音楽を劇に付けましたが、その中から5曲を選んでオーケストラ用の組曲にまとめました。
 今では演劇の『仮面舞踏会』が上演されることはほとんどなくなりましたが、組曲は人気があり、とくに第1曲目の「ワルツ」はオーケストラのコンサートなどでもよく取り上げられます。軽快なワルツの3拍子に乗って哀愁の漂うメロディーが登場します。

マルケス:
ダンソン 第2番

 クラシック音楽のコンサートでは、ヨーロッパやアメリカ合衆国の作曲家がよく登場しますが、続いて聴いてもらう『ダンソン 第2番』はメキシコが生んだ大作曲家アルトゥーロ・マルケス(1950~ )の作品です。
 メキシコという国がどこにあるかわかりますか? 北アメリカ大陸の南部に位置する国ですね。「ダンソン」とは、お隣の国キューバ(メキシコの東にある島国)で生まれたダンス・ミュージックのことです。ある時マルケスがメキシコの観光地を訪れたとき、現地のダンソンを聞いて刺激を受けたことから、オーケストラ作品「ダンソン」シリーズが生まれました。
 なかでも1994年に書かれたこの第2番はとても人気があります(ちなみに、これまでに第9番まで作曲されています)。マルケスは「ダンソンは一見軽やかな音楽のようだけれど、色っぽくて、ときにシリアスで、古き良きメキシコ人がノスタルジックに踊る喜びのダンス音楽なのです」と伝えています。一度聴いたら忘れられないような、強烈なインパクトのあるリズミカルな音楽です。

ホルスト:
組曲『惑星』作品32 より 第4曲「木星、快楽をもたらす者」

 本日のプログラム最後に演奏されるのは、イギリスの作曲家グスタヴ・ホルスト(1874~1934)の名曲です。『惑星』というタイトルをもつこの組曲は、太陽系の惑星のうち、地球をのぞいた7つの星(火星・金星・水星・木星・土星・天王星・海王星)をテーマとする7曲で成り立っています。天体に興味のある人なら、「あれ? 地球を除いたとしても、ぜんぶで8つの星じゃないの?」と思われるかもしれませんね。実はホルストがこの曲を完成させた1916年当時、まだ冥王星はその存在が知られていなかったのです。ですから、この組曲には冥王星が入っておらず、全7曲なのです。
 ところでホルストは、この組曲を通じて、それぞれの星の様子を音楽で表現しようとしたのでしょうか。実はそうではありません。ここも「え?」と思ってしまうポイントですね。天体そのものではなく、では何にホルストは関心を持っていたかというと、実は星占いなのです! みなさんの中にも、星占いが大好きな人もいるかもしれないですね。占星術によると、今日演奏される「木星」は、「快楽をもたらす者」という性格なのだそうです。この曲の中間部に登場する雄大で美しいメロディーは、日本では平原綾香さんが歌う「Jupiter」の原曲として知られ、イギリス本国では聖歌や合唱曲としてとても親しまれています。

コラム
音楽が聴かれる場所
その3 ~コンサートホール

 このコラムでは、400年もの長い歴史をもつクラシック音楽がどのような場所で演奏されたり、聴かれてきたりしたのかをご紹介しています。3回目の今日は、現代の私たちにもなじみ深い「コンサートホール」です。
 今でこそ、コンサートと言えば立派な音楽ホールで演奏されることが一般的ですが、その歴史は意外と浅く、もっとも初期の音楽専用ホールが誕生したのは19世紀の後半です。ニューイヤー・コンサートで知られるウィーン楽友協会の「黄金のホール」は1870年に、オランダのコンセルトヘボウは1888年にオープンしました。日本ではさらに100年ほど経ってから初のコンサートホールが作られました。皆さんがいるこのサントリーホールは、東京で初のクラシック音楽の専用ホールとして1986年に開館し、今年で35周年を迎えます。
 さまざまな出し物をする多目的ホールと違い、音楽専用ホールは歌や楽器の音がよく響くように、設計から工夫が凝らされています。また、座席数は数百から3,000席ほどまであり、多くのお客さんが心地よく良い音で音楽を楽しめるようになっています。
 サントリーホールのように、客席がステージを取り囲む段々畑のようになっている形をヴィンヤード(ブドウ畑の意味)型といい、正面のステージに向かって客席が平行に並べられている形をシューボックス(靴箱の意味)型といいます。ホールによって残響(歌や楽器の音が止まったあとも壁や天井の反射から聞こえる響き)の長さが違い、聞こえ方・感じ方も違ってくるので、そのあたりもコンサートの楽しみの一つとなります。
 また最近では、コンサートを自宅にいながら楽しめるようにもなりました。インターネットを活用したオンラインの配信です。事情によってコンサートに出かけられないときに、少しでも雰囲気を味わえるのは嬉しいですね。でも今日のように、みんなで集まってホールで聴く音楽の素晴らしさは格別です。全身で音楽の響きを感じ、楽しみましょう!

(文 飯田有抄)