プログラムノート

第72回 2019年12月15日(日)『リズム』

ベルリオーズ:『ラコッツィ行進曲』
スーザ:『ワシントン・ポスト』
チャイコフスキー:バレエ音楽『くるみ割り人形』組曲 作品71a より
ピアソラ:『リベルタンゴ』
ヨハン・シュトラウスII世:ワルツ『美しく青きドナウ』作品314
ラヴェル:『ボレロ』

「こども定期演奏会2019」テーマ曲

村瀬萬紀:
『空中散歩~Les Petite Histoires』
村瀬萬紀さん(小学校4年生)からのコメント
『空中散歩』
 この曲の主人公は庭に置き去りにされた自転車です。乗る人がいなくても自転車はくさったりせず、一人ごきげんで出かけます。自由に空も飛び、たっぷり散歩を楽しむと、今度は家路を急ぎます。少しゆっくりしすぎたからです。
『Les Petite Histoires』
 どこかの街角でおじいさんがベンチに座り、ヴァイオリン弾きの奏でる曲を聴きながら、目を閉じて昔のことを懐かしく思い出す。そんな場面を想像して、この曲を作りました。
 この二曲が一つに合体するなんて、一体どんな風になるのかと、とても楽しみです。

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

 みなさん、こんにちは! 今年のこども定期演奏会は「音楽レシピ〜音楽は何でできている?」をテーマに、オーケストラを通じた素敵な音楽をお届けしていきます。第1回目にご紹介するレシピは「ハーモニー」。ハーモニーとは、違う音と音とを重ね合わせて作られる美しい響きのことです。一人で歌うのも楽しいけれど、だれかが一緒に“ハモって”くれると、ぐっと音の豊かさが広がりますよね。今日は素敵なハーモニーに彩られた作品がたくさん登場します。

ベルリオーズ:
『ラコッツィ行進曲』

 本日最初に演奏されるのは、フランスの作曲家エクトル・ベルリオーズ(1803~69)が作曲した『ラコッツィ行進曲』です。この曲が作られた1846年当時、ベルリオーズはヨーロッパのさまざまな都市へと演奏旅行に出かけていました。訪問先の一つに、ペストというハンガリーの街がありました。当時のハンガリーは、ハプスブルク家というオーストリアのお金持ちの貴族に支配されていたのですが、ハンガリーの人々は支配から逃れたい、自分たちの国は自分たちで治めていきたい、という思いが高まっていました。そこでベルリオーズは、ハンガリーで人気のある民謡を用いたオーケストラのためのマーチ『ラコッツィ行進曲』を作曲し、ペストの人々の愛国心を盛り上げたのです。客席にいた人々は大いに感激し、ベルリオーズに大きな喝采を送ったそうです。ベルリオーズ自身もこの行進曲を大変気に入り、同じ頃に作曲していた『ファウストの劫罰』という壮大な音楽劇の中でも使用しました。

スーザ:
『ワシントン・ポスト』

 『ワシントン・ポスト』とは、アメリカ合衆国の首都ワシントンD. C. の新聞社です。1889年、ワシントン・ポスト紙では、小・中学生を対象とした作文のコンテストが開かれました。このコンテストの表彰式のために作曲されたのが、新聞の名前と同じ『ワシントン・ポスト』という行進曲です。作曲したのは、アメリカの海兵隊バンドの隊長のジョン・フィリップ・スーザ(1854~1932)です。当日のセレモニーでは、スーザが指揮する海兵隊バンドが演奏しました。晴れやかで立派なこのマーチはたちまち話題となり、スーザの代表的な作品となって、彼は「マーチ王」と呼ばれるようにもなりました。

チャイコフスキー:
バレエ音楽『くるみ割り人形』組曲 作品71a より

「ロシアの踊り(トレパーク)」
 ロシアの作曲家チャイコフスキー(1840~93)は、『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』など、世界中で愛されているバレエ音楽を作曲しました。バレエ音楽『くるみ割り人形』は、ドイツの作家E. T. A. ホフマンの童話『くるみ割り人形とねずみの王様』をもとにして作られたもので、特にクリスマスの時期に取り上げられます。
 物語の舞台はクリスマス・イヴ。少女クララにプレゼントされたくるみ割り人形は、夜になると王子に姿を変え、クララをお菓子の国へと連れて行ってくれます。お菓子の国ではクララと王子を歓迎するパーティーが開かれ、チョコレート、コーヒー、キャンディー、こんぺい糖などの妖精たちが次々と踊ります。「ロシアの踊り(トレパーク)」はその中の一曲です。トレパークとは、ロシアや、そのお隣にあるウクライナという国に昔から伝わる踊りの曲のこと。テンポの速い元気のいい音楽です。


ピアソラ:
『リベルタンゴ』

 続いては、南アメリカの国アルゼンチンで生まれたアストル・ピアソラ(1921~92)の作品です。ピアソラは子どもの頃からバンドネオンという楽器(アコーディオンの仲間)が得意で、バンドのリーダーとして演奏をしていました。やがてフランスに渡ってクラシック音楽も勉強しますが、独特のキレのあるリズムを持ったタンゴというアルゼンチンの伝統的な音楽に目覚め、いくつもの傑作を残しました。
 『リベルタンゴ』は1974年に作られたピアソラの代表的なタンゴです。タンゴは街中のカフェなどで演奏される音楽でしたが、有名なチェロ奏者のヨーヨー・マ(1955~ )が演奏したことから、クラシック音楽ファンの人たちの間でもよく知られるようになりました。

ヨハン・シュトラウスII世:
ワルツ『美しく青きドナウ』作品314

 「ドナウ」とは、ヨーロッパを流れる長い川のことです。音楽の都、オーストリアのウィーンにも、このドナウ川が流れています。作曲者は、ウィーンの街で活躍していたヨハン・シュトラウスII世(1825~99)。彼は舞踏会で踊られるワルツやポルカといった華やかな音楽をたくさん作り、「ワルツ王」と呼ばれる人気者でした。
 この曲が書かれた当時、ウィーンの人たちは戦争で負けたばかりで元気をなくしていました。人々に元気になってもらおうと、シュトラウスII世はドナウ川ほとりの水鳥や花、空の青さや川に映る月などが歌詞に登場する合唱曲として、『美しく青きドナウ』を作りました。それがオーケストラ用に編曲されると、たちまち人気となり、シュトラウスII世の最高傑作と言われるようになりました。オーストリアでは「第二の国歌」として愛され、新年をお祝いするニューイヤー・コンサートの定番曲としても親しまれています。

ラヴェル:
『ボレロ』

 おしまいにフランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875~1937)の作品を聴いてもらいます。この曲もバレエのための音楽として作曲されました。バレエの内容は、とある酒場で一人の踊り子が踊り出すと、他のお客たちもステップを踏み始め、やがてはその場の全員が情熱的に踊るという内容です。ラヴェルは1928年にイダ・ルビンシテインというダンサーから頼まれてこの曲を作り、その年にパリ・オペラ座において初めて上演されました。
 曲はスネアドラム(小太鼓)が奏でる「タンタタタ タンタタタ タッタッ、タンタタタ タンタタタ タタタタタタ」というリズムで静かに始まります。このリズムは曲の終わりまでのおよそ15分間、テンポを崩すことなくずっと続けられます。やがてフルート→クラリネット→ファゴット……というように様々な楽器を巡ってメロディーが奏でられます。登場するメロディーはたった2種類だけなのですが、ラヴェルはそれぞれの音色をうまく組み合わせており、だんだんと音量が大きくなっていきます。最後には壮大なクライマックスを迎えます。